Francis Jammes, 吉村啓喜

彼女は可愛らしいきゃしゃな娘でした。彼女はある店で働いていました。彼女は、あえて申しあげるなら、格別に聡明だというわけではありませんでしたが、やさしくて黒い目をしておりました。その目はすこしかなしそうに人にむけられ、そのあとでふせられるのでした。彼女は情愛は深いが平凡な娘であると思われていました。この評価は彼女のとてもやさしい平凡さから生じたものなのです。そしてこの平凡さは真の詩人だけが理解できるもので、そこには人への憎しみは全くみられないのでした。 彼女はその住んでいる部屋と同じように質素な娘であると思われていました。彼女は人にもらった1匹のかわいい牝猫だけがいる簡素な部屋にひとり暮らしをしていたのです。毎朝、店に出かける前に彼女はお椀の中に少量のミルクを入れておくのでした。 そうしてそのやさしい女あるじと同じように、猫もかなしそうなやさしい目をしていました。猫はめぼうきのある窓の上で日なたぼっこしたり、絵筆のような小さなあしをなめたり、短い頭の毛をといたり、じっとかまえてねずみをねらったりしていました。 ある日猫も女主人も身ごもりました。一方の相手は彼女をすてた立派な紳士でした。もう一方の相手はそのあとどこかへ行ってしまった美しい牡猫でした。 けれども両者の間に1つの相違がありました。あわれな娘は病気になってしまっていつも泣いてばかりいるのでした。けれども猫の方はおかしな格好にふくれあがった白いおなかを陽にさらしながら、ちょっとしたあそびの数々をひとりでみつけては楽しんでいました。 猫は娘よりもあとに身籠もりました。このことによって数々の面倒がはぶかれ、2つのお産が同じ時期になるという結果になりました。 娘はある日、彼女を捨てた立派な紳士から1通の封筒を受けとりました。彼は彼女に25フランの金を送り、自分がどんなに気前がいいかを書き立てていました。彼女はこんろと炭と1スウ分のマッチを買いそして自殺しました。 彼女が天国に着いたとき、直ちに若い司祭が彼女が入って行くのをおしとどめようとしました。愛らしいきゃしゃな娘は自分が妊娠していることに気がつき、神さまが自分をお罰しになるだろうと考えてからだがふるえました。 しかし神さまはこう申されました。 娘さん、わたしはあなたのためにきれいな部屋を準備してある。そこへいくがいい。そして子供を生みなさい。天国では何事も都合よく運ぶのだ。ここではもう死ぬこともない。わたしは小さい子がだいすきだ。子供たちをわたしのところによこしてほしい。 神の慈愛の大病院の中に準備されていた小さな部屋に入ると、彼女はおもいもかけぬものをみました。神さまはその部屋の中に彼女が可愛がった猫を、きれいな箱に入れておいてくださったのです。窓の上にはめぼうきもありました。彼女は床に入りました。 彼女はブロンドのかわいらしい小さな女の子を生み、猫はきれいで愛らしい4匹の黒い仔猫を生みました。